公開記念イベント「愛してよ 映画講座」

1月12日 『愛してよ』トークイベント
「愛の演出論講座 パート1 ~二人とも映画監督を目指す若者だった~」

1月12日 18:40~ シアターイメージフォーラムにて
ゲスト:阪本 順治(監督) × 福岡 芳穂

※注意 ネタばれあり、です!

福岡 「…ども今日はあり…あり…(いきなり口ごもる・笑)えー…口下手なもんで(笑)寒い中、皆さんありがとうございます。えーと、阪本さんと僕というのは意外かもしれませんが、彼とは20…数年前に、井筒和幸監督が撮った『COMBATてんねん』というちょっと異常な(笑)ビデオ…だっけ」
阪本 「ビデオ作品ですね」
福岡 「という作品で同じ演出部として一緒にやりまして、それ以来の付き合いです。二人とも助監督でした。まあ阪本さん今は大監督なんですが…当時から態度が非常に大きくて(笑)」
阪本 「(笑)」
福岡 「僕がチーフですよ、僕がチーフで彼が」
阪本 「サードですね」
福岡 「なのにもう人を人とも思わない態度で(笑)もうその当時から俺はチーフになるまで助監督なんかやってないですからみたいな(笑)」
阪本 「(笑)そんなこと言ってないと思いますよ」
福岡 「言ってた言ってた(笑)」
阪本 「あ、そーですか(笑)そーかなー」
福岡 「もう飲み屋でも一番態度がでかい(笑)監督の井筒さんより態度がでかいという」
阪本 「いや…あの…わりと、否定しません(場内爆笑)初対面で嫌われたなっていうのは感じたんで(笑)」
福岡 「でも非常に面白い人だな、というのはあって。その作品が終わった後もなんとなく付き合いがあって。で、その一、二年後かな、その当時僕助監督しながらときどきピンク映画を撮ってたんですけど、1985年に公開された『凌辱制服処女』っていう作品のシナリオを彼に書いてもらいました。それもヘンな話で。主人公は男の探偵なんですけども、その探偵事務所を使って、まあホテトルみたいなことをやってる女の子がいて、そこにもう一人奇妙な女の子が来て事件に巻き込まれていくみたいなヘンな話だったんですが。で、シナリオ書いてもらって、お、いい話ができたなあなんて言ってたら、ピンク映画だからタイトルが勝手に決まっちゃうんですね、クランクインのちょっと前に『凌辱制服処女』ってタイトルが来て、お、制服かよって、制服なんか出てこない話だったんで(笑)急に女の子の一人に制服着せることにして、何で制服着てるのかワケわかんないという(笑)まあでもセリフでも阪本さんの書いたセリフでやっぱりキワどいセリフがありまして…“みんなバカでありがとー!みんな●●●●でありがとー!”みたいな…」
阪本 「(頷く)」
福岡 「映倫からそのセリフだけでカットされそうなそんな異常な映画でしたけど、どっかでビデオがあるのかもしれません。そんな感じでその次も一緒にホン書いてよみたいなお願いをしてる頃に、彼の方はずっと準備をしてた『どついたるねん』が入るんでってことで、もうそこから、監督阪本順治になっていった、みたいな」
阪本 「(笑)ですよね。ま、今日の映画の中身の前にそういう人となりっていうことになると…この映画から皆さんが受ける印象と僕が知ってる福岡さんはかなりかけ離れてましてですね(笑)ホンットにこの乱暴モノ!って感じだったんですけど(笑)あのーなんていうか、例えばその頃福岡さんの家でご馳走になると…またそういう乱暴モノっていうことと真逆でこの映画に近いのかもしれないですけど、なんか天ぷらとか揚げてもらってですね、さあ食卓に並べて食べようとするときに福岡さんは、食べる前に使ったものを全部洗わないと気が済まないんですよ(笑)目の前でこう、天ぷらが冷めていくんだけど(笑)やっぱその辺のどういうんでしょうかねちょっとマニアっぽい(笑)感じですかね、神経質な。そういうのも片方ではありながらまあある程度酔っ払ったら豪快で、僕ら助監督仲間でね、渋谷でヤクザに囲まれて(笑)なんかケンカしたこともあったし、ねえ、それ以外のことなんか言えないことばっかですよね(笑)なんかだから僕はこの映画を観せてもらったときに、どうしてもそういう助監督時代にこう福岡さんの後をくっついていって遊んだりしてた印象と、すごくこの映画が通じるところがあって、で同時に、すごくかけ離れたところがあって、個人的にすごいその何て言うかギャップみたいなものを含めて楽しませて頂いたんですよね。で先にまあ感想から言っちゃうと、やっぱり映画って、僕自身は、ストーリーがよくできてるとかいいドンデン返しがあったとかそういうものではなくて、やっぱりスクリーンの中に映っている登場人物と、お客さんの自分が同じ空気を吸ってるような気にさせてくれるような映画っていうのが僕にとっては一番で。で僕はこの映画を観たときに、登場人物の人たちと、まあ舞台が新潟だったら新潟のあの空気を一緒に吸ってるような気にさせてくれたし、やっぱり俳優たちがきちんと演出されてることとか、それとその、一歩間違えば嘘くさくなる設定、オーディションとかそのコマーシャリズムの再現みたいなそういうところ、浜辺で写真を撮ってるところとかできあがったそのフォトグラフとかそういうものがちっとも嘘くさく感じなかったし。あとCGとかそういうものの使い方もやっぱり物語とか登場人物の心理とかに寄り添った使い方だったんで、それがとてもいい意味で非常に不思議な気持ちにさせられたんですね。で、もうあんまり具体的にどこが好きっていうのはこれ以上言ってもしょうがないかなって思ってんですけど…」
福岡 「怖い怖いミョーに褒められると怖い(笑)」
阪本 「(笑)」
福岡 「僕も阪本さんの映画好きですよ(笑)」
阪本 「(笑)あ、いやいや」
福岡 「僕はどれが好きかっていうと『ぼくんち』が好き」
阪本 「あー『ぼくんち』ね」
福岡 「『顔』とかは皆さん世評も高いし名作だなと、うまいなと、素晴らしい映画だと思うんですけど個人的には『ぼくんち』が、うまくなくて(笑)なんて言うんですかね」
阪本 「『ぼくんち』も半ば子どもが主役で、そのときに考えたことと、『愛してよ』が…まあゼンゼン違う映画なんで共通項見つけなくていいんですけど(笑)やっぱり世の中に許す側と許される側の二種類しかいないとしたら、やはり子どもが許す側になってて、大人が許される側になってるみたいな、割とこの映画もすごくそういうことを感じたんですよね、で、『ぼくんち』も実際そうだし、出てくる大人もみんな酷い連中ばっかりでで、子どもがこう、言えば無意識的にでも許していってあげることで成長していく、みたいな…」
福岡 「(頷く)」
阪本 「…かなー、まあムツカシイことばっかり言っててもしょうがないですよね(笑)」
福岡 「ムツカシかったですからねー昔から、僕は怒られてばかりでした(笑)」
阪本 「まあ僕は福岡さんに20年前に洗濯機を頂いたんで(笑)もうそれだけで感謝しております(笑)」
福岡 「あげておくもんですねーなんでも(笑)」

阪本 「あ、じゃあすみません、今日は僕福岡さんに『愛してよ』を撮影したときの脚本を持ってきてくださいって言ってさっきちょっと読んでたんですけど」
福岡 「すごいんです、昨日電話あって、明日台本持ってきて、って(笑)」
阪本 「いやそんな言い方してない、持ってきてくださいって」
福岡 「はい、って探して持ってきました」
阪本 「それであのーすみませんまあ一応同じ職業の人間として…(福岡の台本を捲りながら)だいたい脚本って僕なんかはこう、コンテを割るときにいっぱいタテ線を引いて、ここは引きでとかここはアップでとかそういうことを落書きのように書いていくんですけど、けっこう福岡さんは20本くらいしか線が引いてなくて(笑)」
福岡 「(苦笑)」
阪本 「どっか具体的なシーンでもいいんですけど、現場で絵づくりを決めていくときに優先していることとか、現場はどういうふうにされているのかと、その辺をちょっとお聞きしたいなと思ったんですけど」
福岡 「昨日持ってこいって言われて探して見直したら、あ、今回のこの『愛してよ』は割と自分で線引いてるなと。ちゃんとカット割りみたいな。ほとんど僕は予め線引いたりカット割ったりしないんで、台本が真っ白なんですね、いつも。というのはやっぱり結局その場で、その場所の空気の中でまず役者さんにやってもらってそこからキャメラマンと相談しながら撮り方決めていったりするんで。まあとにかく見る、っていうかそういうやり方ですよね。今回やっぱり線引いてあるっていうのはCGのことがあったり、あとちょっとこの映画のときは自分でもその…屋上の拡がりであったり高さの見せ方であったりとかっていうことで多少珍しく映像的な狙い方っていうのをちょっと意識したのかもしれないです。普段はほとんどしないです」
阪本 「日本映画って結局時間との闘いとかあって。俺なんかは線引いたりしなきゃいけないなって思ったりするのは、その現場をスムーズに早く、まあスタッフに先に準備できるようにみたいなところで合理的にしていこうって線を引いてしまうんですけど。やっぱりその福岡さんのやり口っていうかやり方みたいなことっていうのはほとんど僕はやったことないんですけど、割とすーっといくもんですかね」
福岡 「以前けっこう年長のベテランのスタッフの人から、まずそうやって俳優さんの動きを見るっていうときにはスタッフも一緒に見るわけだから、そのシーン全体の狙いとか流れが結局自分達にも把握できて、あらかじめカットごとに引いて寄ってって説明されるよりも実はスムーズに進むって…言われたりなんかしたこともあった、かな」
阪本 「まあそういうふうに俳優さんも含めて、何をどういうふうに撮ろうとしているのかっていう共通理解を先にしたほうがスムーズにいくってことですよね」
福岡 「あんまり現場でこう、だらだらというかあんまり時間をかけるのが好きじゃないんで、そんなに遅くないですよ」

阪本 「(台本を見ながら)ここにメモが書いてあるんですけど。他人が見ちゃいけないと思うんですけど(笑)」
福岡 「恥ずかしいですよね」
阪本 「でも字がよく読めないところが多い(笑)」
福岡 「自分でもよく読めないもん(笑)」
阪本 「(台本を見ながら)これはちょっと聞いてみようかな。主役の美由紀、西田さんがやった役ですよね。美由紀って書いてその横に“不自由を感じないで 遠慮しないで 戸惑わないで”って書いてあるんですけどこれは何ですか。このキャラクターの根っこみたいなことですか」
福岡 「…あの、多分、西田さんと話してたときに、やっぱり彼女実際に子どもいないしそういう経験ないんで…どうしても演じる前にその、どこかで、こういうことって実際の親子の関係の中で母親がやるんだろうかとか、そういうふうに一回どこかで身体が動く前にアタマで考えてしまうって言われてて、でも別にそういうのは母親って言ったって多分いろんな母親いるだろうし、いろんな人いるだろうからあんまりそういう実際の母親だったらこういうことしないんじゃないだろうかっていうふうに不自由に考えないで、とかってことを、多分戒めつつ…自分の中でもあるじゃないですか、こうフツウの母親がこんなことしないよなとかっていう、西田さんが思う以上にこっちの中にもあるかもしれないから…何でもあっていいんじゃないっていう…そういうことかもしれない」
阪本 「要するにあれですね。キャラクターのあれじゃなくて、演出するときの合い言葉、みたいなもんですよね」
福岡 「あ、そうかもしれない」
阪本 「あーこれいいとこ聞いたなー、俺(笑)」

阪本 「あと沢木」
福岡 「松岡クンの役」
阪本 「沢木って横にやっぱりメモで、“生の連続性のアイデア?”…これは」
福岡 「はー、これがですね、これはパンフレットにも書いてあるんですけど、ま、松岡クンに最初にオファーしたときに自殺する役は嫌だって言われて、で、OKしてくれてからもとにかく…映画まだ観てない方もいらっしゃるからあれなんですけどとにかく…単純に言うと、いつも死を考えているような男を演じたくないと、どこかで生きるっていうのは、生っていうのは継続されるもので、それが途中で唐突に途切れさせられたり、途切ったりするものではなかろうかっていうのがあって。だから、映画観ててあーこいつは死ぬんだねとかそういう予感をなるべく感じさせない、常に生は継続されていくであろうというのを、台本上も表現しようとしたんですけどなかなか難しくて、彼と一緒にアイデアをお互い出し合おうねっていうのをやってたんで。まあ最終的には彼から非常に素晴らしいアイデアが出て、多分注意してご覧になると皆さんお気づきになるかもしれないですけど」
阪本 「そうすると、その真逆のエリカ、死を誘うというか、これはどういうところから。このキャラクターは」
福岡 「これはね、あの例えば10才の少年にとって、じゃあ10才だから死というものから遠いかっていうと、いや生も死も性もなんかフツウにいろんなことがその周りにあるであろうと。で、その中で揺れる状況はあるだろうと。10才でも生と死の間で揺れるだろうし。で、そういうときにその死の側と彼が何か会話できたりしないだろうかというふうに考えたんですよね、シナリオ段階で。でそんなときにいろんなアイデアが出たんですけど。一緒に飛び降りてあげるっていうのは昔僕が、一回そういう“飛び降り屋さん”みたいな話を自分で考えたことがあって。一人じゃ淋しいじゃないですか、やっぱり。それでそういうキャラクターが出てきて、それを使ってみようかって」
阪本 「それは結局やっぱり自分でそういうことを考えたことがあるっていうことですか。あの渋谷で遊んでた福岡さんの(笑)死生観みたいなものは割と正直に出てるってことですよね。別に飛び降りるとかっていうことじゃなくて」
福岡 「そう、だからまあともかく思ったことを、いろんなことを並べてみて、その中に10才の少年とかをこう、いわゆる投げ込んでみて彼がどう動いてくれるのであろうかという…それを見つめたいなということですよね」
阪本 「まあ実際にはあの松岡クンは飛び降りて、合成とかあったんですけど。その飛び降りて空中をばーって飛ぶときの松岡クンの顔、は、何て演出したんですか。その途中の」
福岡 「ねー、あれ松岡と、いったいどんな顔になってんの、って話してね。けっこう彼も迷ってたし僕も迷ってたし、これは単純に狙いとして言えば、真横を通過していくことが少年にとってどう影響するだろうかっていう表現だったんですけど確かにお父さんの方がどういう表情をするのかっていうのはねえ…あんまりだから意味を持たせ過ぎないとか…」
阪本 「だから下手すればね、笑っちゃうじゃないですか」
福岡 「そうだよね」
阪本 「でもすごくいい意味で子どもの目線として僕も見れたし、当然その前からいわゆる切羽詰ってるんでしょうけど、飛び降りるときにその途中何を考えているのか或いはそれをどういう説明をして演出したのかなと思ったんですけど…まあそういうところをあんまり突っ込んでもしょうがないのかなあ」
福岡 「監督連中はよく、あまり説明的にならないようにしようとかってよく言うけど、でもどっかで説明しないと理解してもらえないんじゃないかって、そこありますよね。説明したくないんだけど、お客さんに想像してもらうことが全てだと思ってるんだけどその辺のこう、迷いとかってある。想像力をどう信じるかって問題」

阪本 「パンフレットにも、子どもを撮るときには台本を見せないみたいなことを書いてあるんですけど、僕が子ども、だいたいまあ劇団の子どももあるんですけど素人の子を引っ張ってきたりしたときには、もう台本も読めない。だからまあほったらかしにしてればいいと言うか、親が下手に教えないようにしてくださいって言っとけば済むんですけど、でもこの塩クンは他の映画なんかにも出てたし、ホントに最初から最後まで、親から盗み見ることもなく、それは貫徹できたんですか」
福岡 「完成してずいぶんして完成披露試写とかがあったんだけどそのときに至ってもまだボク台本見てないからゼンゼンわからないとか言ってたし」
阪本 「じゃ現場の説明の仕方ってどういう説明になるんですか。この人はお父さんとか」
福岡 「それはオーディションの頃から、誰がどの役をとかわかんない頃から子どもたちに徐々に徐々にエチュードみたいなことをやらせながら、さらに残っていく連中に徐々にいろんな今回の世界のことを少しずつインプットしていって、でリハーサルみたいなことになっていって、リハーサルも台本どおりやるんじゃないけど、その頃、あー彼が今回のケイジ役だなって思って、でまた徐々に徐々にケイジの状況を彼にインプットしていって、で、西田さんに会わせお母さんだよとか、松岡さんに会わせてお父さんだよとか。そしたら西田さんの方なんかでもそういう付き合い方になっていったりとか。で周りの設定なんかも徐々にインプットしていきながら現場に入ったときにはこれが君の生きてる街だねとか、ここでお母さんと住んでるんだとか…徐々にね」
阪本 「でも大人の俳優さんがそういうところに理解がないとね。会ったことないけど西田さんとかってなんか根つめる感じじゃないですか。いや印象だけですよ。何もなかったんですか、その辺」
福岡 「いや結構ありました(笑)だから西田さんには一番最初にその辺のやり方を全部言って、主演女優であると同時に僕の共犯者になって…一緒に子どもをつくってくれみたいな…一緒に子どもをつくる…って(場内爆笑)」
阪本 「いやそれアブナイですよ(笑)」
福岡 「そんなことを言ってたんですけど。よく言うんだけど子どもより子どもらしいところがあるんで彼女自身が(笑)途中で何度か怒られたりなんかしましたけどね(笑)」
阪本 「はー福岡さんが」
福岡 「そう俺がよ。西田さんから。ちっとも私のことは見てないみたいな(笑)面白かったですよ。だから。彼女は彼女で一生懸命。ひとりの母親であり女性っていうのになろうとしてたから。そこの揺れ方も逆に面白かったし」
阪本 「(頷いて)」

監督同士の、たくらみを共有した微妙な頷き合いでこの日のトークは終了し、この日も会場のお客さんへのプレゼント。ジャンケンでゲストに勝った人たちに、ゲストサイン入り『愛してよ』Tシャツ&台本が渡されました。なんとTシャツには阪本さんのサインも。

福岡 「フツウ考えられないですよね、何で他の監督の映画のTシャツにサインしなきゃいけないんだって(笑)」
阪本 「(手にしていた福岡の撮影台本を掲げ)ついでにこれもいっちゃいますか(笑)」
福岡 「ありがとうございましたー(笑)」

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